至福のとき 至福の一杯【小淵沢】
大阪出張帰りに新幹線で缶ビールを飲む瞬間は、至福のときだ。
私は数年前、大阪支店に対して交渉ごとをするような仕事を任されていた。わざわざ大阪まで行き、叱られる。本当に辛い仕事である。
ときには大阪支店の社員との付き合いの飲み会もこなし、終電の新幹線に乗り込む。
そして、どんなに疲れていても、新大阪駅では必ず缶ビールを買う。これだけが出張サラリーマンの楽しみなのだ。大阪始発の新幹線に乗り、出発前には飲み始める。まさに至福のとき。
そういえば、上司がこんなことを言っていた。
彼は昔、山梨県の小淵沢まで営業に行っていた。小淵沢までは新宿から特急でも2時間かかるだけでなく、営業先も我儘で、毎回毎回疲労困憊だったと。
それでも小淵沢駅には美味しい立ち食い蕎麦屋があり、仕事後にその蕎麦を食べるのが楽しみだったらしい。
なるほど。立ち食い蕎麦が上司にとっての缶ビール、至福のときだったのだな。
あるとき、長野市を観光していた私は、小淵沢駅に寄ってから東京に帰ることを思いついた。
長野駅から小淵沢までは、決して近いわけではない。しかし、東京の家から行くよりは近かった。
長野駅から小淵沢に行くルートは、まずしなの鉄道で小諸まで行き、そこからJR小梅線に乗り換える。合計3時間半の道のりだ。
昼過ぎ、小淵沢目指して出発。
その時間、運悪く、乗り換えの接続が悪かった。
また、小諸から小淵沢まで、小海線は2時間半の道のりだ。鬼のように長い。
もっと言うと、私は前日、高速バスで東京から長野まで移動しているのだ。
…疲れた。おばちゃん、体力を過信しすぎである。
食券の買い方に戸惑いながらも、注文したのは山賊蕎麦。
山賊とは山賊焼きのことで、ジャンボ唐揚げのようなものである。
数分後、目の前に蕎麦が置かれる。
存在感のある山賊焼き。器の半分以上を占めているではないか。
一口食べてみると、蕎麦自体が立ち食い蕎麦のクオリティを超えている。流石、山岳地帯の蕎麦だ。立ち食い蕎麦とはいえ侮れん。食べ進めるうちに山賊焼きの旨味が汁全体に広がり、ますます美味しい。
あっという間に食べ終えた私は、中央線で帰宅することとした。
旅行とは、自分が好きでするものである。
それでも、疲れることは疲れるのだ。
そんな疲れた私にとって山賊蕎麦は、旅行を締め括る最高の一杯、至福のときとなった。
立ち食い蕎麦屋丸政の、山賊蕎麦
〜この日のルート〜
長野駅からしなの鉄道で小諸駅へ。小諸駅からはJR小海線で小淵沢駅、そこからJR中央線に乗り換え甲府まで。甲府からは富士急行の高速バスで新宿へと戻った。(小淵沢駅からずっと中央線に乗っているより、甲府で高速バスに乗り換えたほうが安い。お金がなくて時間がある方にオススメ。)